STORY歩み、仲間

2022.06.30 私たちに決意させたもの
ある養蜂家との出会い

ご縁というのは不思議なものです。2022年2月、弊社の代表・松山剛己と私たちの取り組みを、テレビ番組で約1時間ご紹介いただきました。反響は私たちの想像をはるかに超えたもので、皆大慌てしつつもうれしく、お客様に製品をお届けしました。また、お手紙をくださった方もいらっしゃいました。そのなかのおひとりが、これからお話しする愛媛県の養蜂家さんと私たちつなげてくださったのです。

「私たちも養蜂を」という思い

実は山神果樹薬草園では、いずれは養蜂も始めたいと考えていました。山神果樹薬草園のある佐那河内村は、すだちやみかんの栽培が盛んです。季節になると村中で柑橘の花が咲きます。養蜂も盛んで、山神果樹薬草園の周辺にも巣箱が置かれ、花の時期にはセイヨウミツバチが忙しそうに、巣箱と外を行ったり来たりしています。そんな光景を見るにつけ芽生えた、私たちのなかのごく素朴な「いつか養蜂も始めたい」という思い。それを秘めて、愛媛県伊予市の藤田養蜂場さんを訪ねました。

 

砂糖の蜜はすべて抜き取る

藤田養蜂場では、代表の吾野真史(あのまさふみ)さんが、養蜂のことをイチから聞かせてくれました。特に印象深かったのが、「砂糖の蜜はすべて取り除く」ということです。花が咲かず蜜源がない季節、ミツバチはどうしていると思われますか。実は、砂糖水で育てられています。これも蜂蜜であり、流通している市場もあるそうですが、吾野さんによると、砂糖の蜂蜜と花の蜂蜜では味が全然違うとのこと。花の季節が来ると、砂糖の蜂蜜と花の蜂蜜が混じるため、しっかり味見をして、砂糖の蜜の味が抜けきったことを確認し、風味豊かなものにしているとのことでした。「ひと手間かけて美味しいものを」。この姿勢に、私たちはとても共感しました。

 

吾野さんが教えてくれた養蜂の問題点

吾野さんは、養蜂の知識がほとんどない私たちの質問に一つ一つに、優しく丁寧に答えてくれます。その様子はとても楽しそう。ちなみに、ミツバチは飼い主に似るといわれていて、藤田養蜂場のミツバチはむやみに人を刺したりしない、穏やかな性格なのだそうです。そんな吾野さんが少し顔を曇らせたのは、養蜂の世界で生じている問題についてのお話の時でした。蜜源となる花は、開花時期や開花場所が、花の種類ごとに異なっています。そのため、全国の養蜂協会によって、養蜂家各々のテリトリーが決められています。ところが、ネットで簡単に巣箱を購入できるようになった昨今、趣味程度で養蜂をする人が増え、勝手に巣箱を置いてしまうなど、ルールが破られ、各地で問題になっているとのことでした。

そして、何より問題になっているのは農薬です。実に傷がつかないよう、開花の時期、果樹には農薬(殺虫剤)を散布します。それによって、害虫ではない、益虫であるミツバチも死んでしまうのです。開花時期の殺虫剤の散布は、ヨーロッパなどでは使用禁止になっていますが、日本では規制されていないのが現状です。

 

ミツバチが飛び回る農園を

吾野さんにお話を伺い、私たちにとって養蜂はとてもハードルが高いものであることを実感しました。その一方で、自分たちにできることに、まずは専心しようという気持ちになりました。山神果樹薬草園では、これまで苗木に対してのみ、梅雨明けに最低限の量と希釈率で殺虫剤を散布してきました。苗木は成木とは異なり、1本についている葉の数が少なく、1枚無くなってしまうだけで光合成が阻害され、成長に影響が出てしまうからです。そうして手をかけた苗木のうち、2019年に植え付けたものは、無事に背丈ほどにまで成長しました。

そこで、これからは有機JAS認証の取得に向けて、区画を分け、少しずつ完全有機農法の面積を増やすことに方針を切り替えました。慣行農法から完全有機農法への転換、有機JASの取得。山神果樹薬草園は、立ち上げ時からこれらを目指してきましたが、吾野さんに聞いたお話にも後押しされ、いよいよ着手に踏み切りました。これからは苗木の成長を見守りながら、一歩一歩、山に登るように、ミツバチはもちろん、さまざまな昆虫、植物、生き物がいる、生物多様性のある農園をつくり、営みを続けていきたいと思っています。