STORY歩み、仲間

2022.10.12 自家発酵蒸留
「柑橘リキュール柚子6%」ができるまで

2022年10月12日(水)、山神果樹薬草園初のアルコール飲料「柑橘リキュール柚子6%」を新発売しました。ふつう柑橘のリキュールは、穀類が原料の原酒に果汁で味つけされているもの。一方、この山神果樹薬草園「柑橘リキュール柚子6%」は、発酵原液から柚子でつくり、単式蒸留して原酒に。だから「丸ごと柚子のクラフトリキュール」です。

柑橘リキュール柚子6%」は、できれば最初はロックで。丸ごとの柚子の味わいをぜひ楽しんでください。その後はお好みで。さらっと飲みたい方には、なんといっても炭酸割りがおすすめです。山神果樹薬草園の蒸留責任者・渡邊が考案したのは、ジン、ウオッカ、焼酎のいずれかを3分の1、柑橘リキュールを3分の1、炭酸3分の1というレシピ。ビール120mLにリキュール60mLでフルーティに飲むのを気に入っているスタッフもいます。なお、来月にはしっかり飲みたい方向けに「柑橘リキュール柚子25%」を発売する予定です。

一般的にアルコールは蒸留が進むにつれて度数が変わり、香味も変化します。1回目の蒸留(初留)で得られる原酒は「ヘッド」。アルコールの匂いが強く、素材感はありません。それが中留の「ハート」になると素材の香味が感じられるようになり、最後の後留「テール」ではアルコールの匂いも素材の香味も、ほとんど感じられなくなります。

ふつう原酒に用いられるのはハートだけ。けれど、「柑橘リキュール柚子6%」の原酒のヘッドには、柚子らしい香気が含まれています。加えて、私たちには松山油脂において精油を使った製品の処方を組んできた経験があります。微量成分の有無が香りに影響を与えることを知っていました。そこで、今回のリキュールではハートとヘッドに加えてテールも使い、柚子の香味を引き出しました。

柚子を育て、精油を抽出し、果汁飲料をつくっている山神果樹薬草園がなぜお酒をつくるに至ったのか、その理由はシンプル。原料柚子の70%にもなる搾汁後の柚子、内皮・袋・繊維質を飲みきるため、使いきるためです。搾汁後の柚子はまだ香りも水気もたっぷり含んでいます。何か方法がありそうでした。そんな時、「果物は搾汁後であっても、うまく発酵させれば発酵原液ができ、蒸留すれば原酒ができる可能性がある」と教えてくれる人がありました。

とはいえ、本当に私たちにできるのか、悩みました。そんな時に出会ったのが木村太佑さんです。木村さんはオーガニックワインインポーターで、フランスの国家ソムリエでもあります。私たちの話を聞いてくださった後、「とてもおもしろい! やってみる価値は十分にありますよ」と背中を押してくださいました。その言葉は、私たちが顔を上げて前を向くきっかけにもなりました。

お酒の製造には酒類製造免許が必要です。まずは徳島税務署に行き、申請書類を提出することから始めました。ちなみに、初めて税務署を訪ねたのが2021年7月。最終的にリキュールの製造免許を取得できたのは、それから11か月後の2022年6月でした。

酒類の製造を始めるのに最も困るのは、試作であっても免許が必要なことです。ゼロから始める私たちに力を貸してくれたのは、徳島県立工業技術センターでした。

センターは、県内に事業所を持つ企業の活動への協力もしている機関です。山神果樹薬草園も、竣工までの期間に貸研究室をお借りしたり、和柑橘について教えていただいたりと、深いご縁がありました。酒類の試験醸造免許もおもちです。そこで相談をもちかけたところ、協力を快諾してくださいました。

特に力を貸してくださったのは同センターの岡久修己(おかひさなおき)さん。発酵原液に必要な酵母を開発されている、お酒のスペシャリストです。ところが、岡久さんは「果物のなかでも柑橘は例外で、外皮に阻害成分が含まれているせいか、ふつうは発酵がうまく進まないんです」とおっしゃるのです。ショックでした。「聞いてないよー」でした。

けれど、私たちはチャレンジしたかったのです。それを伝えたところ、岡久さんは思いを汲んで、「それなら挑戦してみましょう」と、発酵原液の蒸留やアルコールの分析法まで、ノウハウをすべて伝授してくださいました。

発酵原液をつくるために準備したのは、搾汁後の柚子と酵母、きび砂糖です。これらを混ぜ、毎日攪拌して観察すると、日に日にプクプクと泡が立つようになりました。発酵です。柑橘が発酵したのです。すんなり発酵が始まったことに、岡久さんも大変驚かれ、「新たな知見」とおっしゃいました。これはおそらく丸ごと皮削り®で、外皮をほぼ削ったことで、発酵の阻害成分までが取り除かれたのではないか、と私たちは推測しています。

設備がすべて揃った2022年6月、無事にリキュール製造の認可が下りました。幸運なことに、発酵は実機でも滞りなく進みました。次の問題は蒸留です。使うのは単式蒸留器。アルコール分以外の成分も溶け込むため、素材である柚子の香味を生かすことができます。一方、加熱温度、時間、攪拌スピード。これらの条件を整えないと、素材の持ち味が生きた原酒になりません。初めての蒸留、緊張して加熱を始めました。アルコールは沸点が低いので、加熱するとさかんに気化します。その蒸気を集めて冷やし、液体にすると原酒になるのです。

初めての蒸留を開始し、ホースの先をじっと見つめることおよそ30分。ようやくポタポタと滴ってくるものがありました。原酒です。蒸留成功の瞬間です。滴りつづける原酒。うれしさが弾けて、私たちはみんな、両手を挙げて大喜びしました。

私たちが最初につくった原酒のアルコール度数は40%。それを6%まで落としたのが、「柑橘リキュール柚子6%」です。原酒に「丸ごと皮削り®国産柚子のしぼり酢」と「柑橘コーディアル」をブレンドし、丸ごと皮削り®製法の柚子精油を加え、味と香りを整えています。

「6%」は順調に進みました。お酒があまり強くない人でも飲めてアレンジもきくよう、何度も試作し、試飲してレシピを決めました。それなのに、それなのに、です。

発売直前、最後の最後の試飲会で、「甘過ぎないか?」という声があがったのです。「こんなに甘くては食事の邪魔になるよなぁ」と言うのです。「なんでこんなに甘いの?」理由は単純、砂糖です。アルコール度数6%なら、ふだんお酒を飲まれない方にもおすすめできるのではないか、だとしたら甘いほうがよい、と考えた結果でした。「これじゃ甘くて飲む気が起こらないなぁ…やり直さない?」。「え? このタイミングで…?」。誰もが心のなかでつぶやいたことと思います。

すぐに砂糖を抜去したレシピの開発に取り組むよう、てきぱきとした指示が飛びました。ボトルのラベルもつくり直しです。リキュールの製造担当者からは「発酵原液の製造から始めるので、どうしても発売日に間に合わない」という悲鳴が上がります。この甘さのままでいくか、イチから味を見直すか。シンプルに、おいしいと言えるのはどちらなのか。答えは明白でした。発売日を当初予定の9月12日から10月12日へと1か月延期し、柚子らしいおいしさがある新たなレシピの開発を、急ピッチかつ慎重に進めることとなりました。

そして、2022年10月12日、「柑橘リキュール柚子6%」は晴れて発売の日を迎えました。レシピをイチから見直し、酸味と甘みのバランスをとり、原酒のほのかな苦みが感じられる後味に仕上げました。食前や食中には炭酸割り、食後にはロックでと、どんな場面にも合うことと思います。これから始まる柚子の季節に、柚子のお酒はいかがでしょうか。ぜひ一度お試しください。